読んだもの

上野千鶴子 「誰が好きで打たれ強くなりますかいな」

trilltrill.jp そういう場面に何度も遭遇して、うまく言い返せなくて「クソ! あのヤロー、あのときこう言い返せばよかった」と、あとでジワッと腹がたつこともよくありました。これまでの経験でわかったのは、差別発言は、たいていパターンが決まっていると…

『「死にたい」と言われたら 自殺の心理学』末木新 (ちくまプリマ―新書)

予防すべきでない「自殺」をするためのハードル 仮に自分のやりたいことをやりたいだけやって、自分の人生にも充実した意味を感じることができ、いよいよやることもなくなって退屈で仕方なくなってきたので自殺することが理想的な死に方だったとしても、きち…

坂井佑円/西平直 編著 『無心のケア』(晃洋書房)

……「ペイン」は外から和らげてもらうことが可能である。医療は「ペイン」を取り除く手助けをする。ところが、「クライシス」は、外側から取り除くことができない。クライシスは、その当事者が自ら通り抜けるしかない。内側から温め、内側から変わってゆくし…

【論文】What’s Wrong With Advance Care Planning?

JAMA. Author manuscript; available in PMC 2022 Aug 12. Published in final edited form as: JAMA. 2021 Oct 26; 326(16): 1575–1576. doi: 10.1001/jama.2021.16430 PMCID: PMC9373875 NIHMSID: NIHMS1826281 PMID: 34623373 What’s Wrong With Advance …

和田秀樹『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書443)

患者よりメンツを優先する日本の医学会 …… たとえば、乳がんの治療法の変遷を見ても、その様子は明らかです。一昔前は乳がんが見つかったら、乳房を全部切除する手術方法が一般的でした。ただ、乳房をすべて切除してしまうと、大胸筋という筋肉やリンパ節も…

中村哲『医者よ、信念はいらない まず命を救え! アフガニスタンで「井戸を掘る」医者』(羊土社)

まあ人を拘束できるのは、お巡りさんと医者しかいないんですよ(笑)。逆に言うとそれだけ頼りにされているわけで、それに乗っかって威張ったり儲けたりというのは、食えないですね、私はそう思いますね。 (p.131)

『女帝 小池百合子』を読んでいたら、犬猫殺処分をめぐる環境省の方針変更「老齢、病気持ち、障害のある犬猫は殺処分とはみなさない」?

公約とした七つのゼロの中で、唯一、彼女が達成したゼロは「ペット殺処分ゼロ」だけである。2019年4月5日の定例記者会見では、わざわざ自ら「殺処分ゼロを一年早く(2018年度に)達成した」と嬉しそうに報告した。動物を愛する人たちからは礼賛の声があがっ…

渋谷智美 清田隆之編 『どうして男はそうなんだろうか会議』(筑摩書房)

第4章 男性が乱用しがちな「構造的な優位」とは? ゲスト 平山亮さん 平山:……男性の生きづらさに関連して言うと、「自分はそういう男らしさから降りたいんです。だけど、周りの男性がそうさせてくれない」という声も聞かれます。もちろん、降りることを妨げ…

中山祐次郎『泣くな研修医』(幻冬舎)

*交通事故で腸を損傷した5歳男児の回復が思わしくない、という場面 「もう一度開ける、か……」 急に佐藤が隆二の方に向き直った。 「はい!……え? え? もう一度、開ける、ですか?」「最悪、な。もしイレウスの原因が原の中にあるんだとしたら、開けなきゃ…

上野千鶴子『女ぎらい ニッポンのミソジニー』(朝日文庫)

……ミソジニーは男女にとって非対称に働く。男にとっては「女性蔑視」、女にとっては「自己嫌悪」。もっと卑近な言い方で言い換えよう。これまでの一生で男のうちで、「女でなくてよかった」と胸をなでおろさなかった者はいるだろうか。女のうちで、「女に生…

平野啓一郎『ある男』(文春文庫):死刑について

国家は、この一人の国民の人生の不幸に対して、不作為だった。にも拘らず、国家が、その法秩序からの逸脱を理由に、彼を死刑によって排除し、宛ら(さながら)に、現実があるべき姿をしているかのように取り澄ます態度を、城戸は間違っていると思っていた。…

キャレブ・ワイルド 鈴木晶訳『ある葬儀屋の告白』(飛鳥新社)

母親が子どもを宥めるとき、その人は世界を修復している。 人の話を(注意深く)聴くとき、その人は世界を修復している。 老いた患者の衰えた身体を風呂に入れる看護師は、世界を修復している。 教育に打ち込んでいる教師は、世界を修復している。 詰まった…

阿古真理『昭和育ちのおいしい記憶』

味覚は家庭でも育てられるが、外食でも鍛えられる。逆に勤め人の場合、ふだん食べている外食の味が、その人の舌を決めると言えるかもしれない。 おふくろの味や、亡くなった妻の味が恋しくなるのは、それが自分にとって大切な思い出とともにあるからだ。味覚…

宮部みゆき『おまえさん』(下)講談社文庫

……女は、己にないものを持つ女に激しく嫉妬する。己が生きることを許されぬ人生を生きる女を嫌うものだと。 (p. 470)

緩和ケアと安楽死の違い

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三浦まり 岩波新書『さらば、男性政治』

ジェンダー平等に適当的な男性性として、EUなどではケアする男性性(caring masculinity)が盛んに提唱されている。伊藤はこれを「男性のケア力」と呼び、男性がケアする、つまり他者の生命や身体、気持ちに配慮する力を身につけると同時に、自分が大変な時に…

雨宮処凛『コロナ禍、貧困の記録 2020年、この国の底が抜けた』(かもがわ出版)

コロナ以来、政権批判の声は日に日に大きくなっている。しかし、それでも安倍政権を支持し続けている人たちもいる。この国に生きる人の多くは真面目で我慢強く、おかみを批判するなんて、という遠慮があることもわかっている。しかし、その我慢の結果がマス…

吉田修一『パレード』

各章で順番に語られる物語の登場人物は、同じシェアハウスで暮らす若者たち5人。 いつだったか、「ここでの暮らしって、私にとってはインターネット上でチャットしているようなもんなのよ」と、琴が言ったことがある。その時は、また訳の分からないことを言…

村上靖彦『「ヤングケアラー」とは誰か』(朝日新聞出版)

私が「ヤングケアラー」という単語を振ったとき、Eさんは「家を出ようかなと思ってます」と自立について語った。通訳役割のなかで自分が消えることへの抵抗としての自立が語られたのだ。 ろう家族のなかでEさんだけが聴こえるがゆえに、通訳以外の介護にまつ…

永井玲衣『水中の哲学者たち』(晶文社)

手のひらサイズの哲学 対話というのはおそろしい行為だ。他者に何かを伝えようとすることは、離れた相手のところまで勢いをつけて跳ぶようなものだ。たっぷりと助走をつけて、勢いよくジャンプしないと相手には届かない。あなたとわたしの間には、大きくて深…

坂上香『プリズン・サークル』(岩波書店 2022)

コミュニティの力を使って問題からの回復を促し、人間的な成長を実現しようとするこうしたアプローチは「回復共同体(Therapeutic Community: TC)と呼ばれ、欧米を中心として世界のあちこちで実践されている。ただし、運営組織や制度によって理念、対象者、…

幸田文『生きかた指南』(平凡社)

「重い母」 お母さんが重くて困る、ということをこの秋2度ほど続けて聞いた。 …… 濃すぎる愛情を、思いという表現で言われたのが「いまは、軽さのよさ、の時代だ」と有難がっている私に、強くひびいた。 私が有難がっているのは、身のまわりの道具類がいまは…

有薗真代『ハンセン病療養所を生きる 隔離壁を砦に』(世界思想社 2017)

ハンセン病療法所に隔離された人々は、みずからに強いられたきわめて厳しい生存条件のなかから、いかにして多種多様な集団的実践を編みだし、肯定的で開放的な諸条件をつくりあげていったのか。本書では、かれらがみずからの置かれた歴史的、社会的条件とわ…

飯島裕子『ルポ コロナ禍で追い詰められる女性たち 深まる孤立と貧困』(光文社新書)

非正規就業者を増やすことにより女性活躍推進を取り繕ってきた対人サービス業。その二大業種である「サービス業」はコロナ禍で大打撃を受け、「医療・福祉」は最前線での困難を余儀なくされている。女性活躍推進の後ろで見えなくされてきたさまざまな矛盾が…

猪瀬浩平『分解者たち 見沼田んぼのほとりを生きる』

周辺地域に開発の波が襲うなか、見沼田んぼは1965年に埼玉県によって開発が規制された。その結果、これまで開発計画も何度も持ち上がったが、県による開発規制と農地法・農業振興法・都市計画法・河川法の規制、そして県民による開発反対運動によって、農的…

Dumsday "ASSISTED SUICIDE IN CANADA" Chapter 1  ロドリゲス訴訟

カーター判決に至るまでの訴訟関連の動き 1993年 Rodriguez v British Columbia カナダ最高裁の判決 現行の自殺幇助禁止を維持 2012年 Carter v Canada BC州最高裁判決 ロドリゲス訴訟の最高裁判決を覆す 2013年 カーター訴訟 BC州上訴裁判決 12年の同州最高…

ケアコレクティブ『ケア宣言 相互依存の政治へ』

www.amazon.co.jp ……トマ・ピケティといった経済学者たちは、これまでになく広がりつづける所得の不平等は、決して偶然ではなく、むしろ、新自由主義的な資本主義の根本的な構造上の特徴であり、現在も指数関数的に広がりつづけているということを明晰に証明…

Travis Dumsday "ASSISTED SUICIDE IN CANADA Moral, legal, and Policy Cinsderations" Introduction

https://www.amazon.co.jp/Assisted-Suicide-Canada-Policy-Considerations/dp/0774866012 著者がConcordia University of Edmontonの神学と哲学のCanada Research Chairだった間に書かれたもの。 2016年のカナダのMAID合法化につながった2015年2月の、Carte…

奥野修二『死者の告白 30人に憑依された女性の記録』(講談社)

儀式が終わって憑依が解けたとき、彼女の中から本当に例は消えたのだろうか。意外にも金田住職はこんなふうに言った。 「霊の存在云々はどうでもいい話なんです。あるといえばあるし、ないといえばない。証明できるものではありません。あくまでその人の中で…

菅野久美子『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』

我々の社会は、目の見えないところで未曽有の『家族遺棄社会』をすでに迎えている。 そして、社会そのものが、「お荷物」になった家族が次々と捨てられる巨大な墓場になりつつある。 核家族化、離婚の増大、毒親や虐待、非正規雇用、就職氷河期、中高年のひ…