『障害者とともに働く』藤井克徳・星川安之【岩波ジュニア新書】

 ILOに関わって、もう一点あげておきたいことがあります。それは、「ディーセント・ワーク」(尊厳のある労働、あるいは人間らしい労働)です。提唱された1999年当時と併せみれば、そこに深い意味を読み取ることができます。地球規模での経済成長一辺倒の様相にあって人々の働き方から尊厳が損なわれ、人間らしさが失われていったのです。ディーセント・ワークは、こうした様相への対抗概念であり、警鐘でした。

(p.111-2)

 

 精神障害分野の社会的入院問題に、この地域移行を妨げている要因を見ることができます。主な要因として、①退院後の生活支援の担い手となる家族の高齢化、②本人の経済基盤の脆弱さ、③働く場や住居などの地域資源の不十分さ、④民間病院の経営問題(隊員が増えることによる収入減)、⑤病院縮小に伴うスタッフの働く場の不明確さ(解雇などの不安)、などがあげられます。逆に言えば、これらの課題が克服されれば地域で通常の暮らしが営めるということです。障害者施設でも同じようなことが言えるでしょう。

 ここで、関連するもう一つの大きな問題を話しておきたいと思います。それは、地域で暮らす障害者のなかには、自宅の他に居場所を持たない「家ごもり」の状態にある人がおびただしい数に上ることです。障害者の生産年齢人口(15歳から64歳)は約387万人で、このうち障害者雇用福祉的就労の傘下にある人は約126万人(32.6パーセント)に留まっています。働いていない人の多くがこの「家ごもり」にある人と重なります。現象的には地域で暮らしていますが、本当の意味での地域移行にはなっていません。実質的な地域移行を実現していく上で、こうした日後人も視野に入れるべきです。

(p. 122-3)

 

 (児玉メモ:労働がすべてではない、と書いた後で、「労働を大切にしながらも、自立や幸福を得るために何が必要かを考えてみたいと思います」として、関連分野として、1.総合的な相談体制の確立。2.住まいの確保。3.本格的な所得保障制度を打ち立てることについて解説。)

 4点目は、家族負担を解き放つことです。障害当事者からすれば、家族依存からの脱却ということになります。具体的には民法の扶養義務制度の検討に着手することです。これに関する中核的な規定として、「直系血族および兄弟姉妹は、互いに浮揚をする義務がある」(民法第877条)があげられます。明治期の規定で、戦後扶養義務の範囲が多少狭まったものの、現在でも裁判所が認めれば三等親の親族にまで義務が及びます。

 この規定は国民全般に及びますが、障害者とその家族への影響はより大きいといえます。家族の経済的、精神的、身体的な負担が重いだけではなく、社会政策の公的な責任をあいまいにする温床にもなります。それだけではなく、障害当事者からすると、生涯にわたって家族の庇護のもとで生きることになり、家族への遠慮や、自立意欲の減衰にもつながりかねません。

 成人に達した場合の扶養義務(支援の責任主体)は、家族の手から離れるべきです。……

(p.138-9)