「社会」と「世間」

「息苦しさの背景に気づこう」

日本世間学会幹事・評論家 佐藤直樹

 

中国新聞2021年1月6日「オピニオン」欄「コロナと同調圧力

 

 私たちは「世間様に顔向けができない」といった言葉をよく使いますね。山上憶良も「貧窮問答歌」で〈世間(よのなか)〉を使っています。千年前から存在する言葉ですが、英訳できません。英語圏には「世間」が存在しないからです。それに対し「社会」は明治期に西洋から輸入された概念の造語です。社会は法のルールに従うことで成り立つ自立した個人の集合体。一方、世間には個人が存在しません。

 

――日本には「社会」と「世間」があるのでしょうか。

 日本は科学技術や法制度を輸入して近代化を果たしたものの、「社会」の輸入はうまくいかず、「世間」が温存されました。そのため建前としての社会があり、そのう上位に本音としての世間がある。そんな二重構造が出来上がりました。