『看護管理』 2021年2月号 「面会制限」が患者の意思決定にもたらした倫理的課題 コロナ禍で患者・家族を支援した看護師の経験から

『看護管理』 2021年2月号

「面会制限」が患者の意思決定にもたらした倫理的課題 コロナ禍で患者・家族を支援した看護師の経験から

 

会田薫子「高齢者が希望する最善の医療及びケアを受けるための倫理的考え方」(p. 98-102)

 日本老年医学会から「新型頃ウイルス感染症(COVID-19)流行期において高齢者が最善の医療およびケアをうけるための日本老年医学会からの提言―ACP実施のタイミングを考える」(2020年8月)

 第1波の欧米での年齢によるトリアージを、老年医学会では粘性による差別と捉え、提言を出した。

英国のNICEが65歳以上の感染者の集中治療のトリアージにClinical Frailty Scale(CFS)を推奨していることを紹介し、「CFSが示すfraility1の段階は大まかでエビデンスが藤生bんなことから、CFSだけでトリアージを行うことへの懸念を示す論文も報告されていますが、暦年齢に変わるトリアージの1つの要素として、高齢者個々のfrailtyの状態も検討していただければと考えています」(p. 100)

https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento231_05_shiryo3.pdf

 そして、最後は「より早期からのACPを」。

 

田村恵子「がん患者におけるCOVID-19による「面会制限」の影響 臨床実践と看護管理の視点から」(p.103-7)

「病院でのオンライン面会も進んではいますが、がん看護や緩和ケアに携わるナースたちはおそらく、面会制限に起因して生じた患者さんの権利が守られない状況に対して、倫理的なジレンマを感じていると思います」(p.104)

・面会制限で家族とのコミュニケーションがとりづらく、これまで家族に聞いてた本人の意向や価値観の確認ができない。

「一方で、この状況をアドバンス・ケア・プランニング(ACP)を進めるチャンスと捉えようという医師たちの声も聴きます。病状説明をしたうえで、「この先、体外式膜型人口肺(ECMO)を装着するような状況になった時には、あなたはどうしますか」ということを、積極的に聞いたほうがいいだろうという意見です。

 この話を聞いて私は、患者さんの権利が守られているとは思いませんでした。一つの選択肢について同意をとるような形で、ACPがどさくさ紛れに進められてしまうのではという違和感がありました」p.105

・緩和ケア病棟だけは終末期の面会可能とすることには、院内にダブルスタンダードができて、患者スタッフ双方から疑問が出てくること、緩和病棟での感染のリスクも考えると悩ましい。

・「ジレンマを感じる」という看護師のとらえ方に対する疑問。

「私たちが感じたジレンマの向こう側にあるのは、患者さんの権利が守られていないという事実です。医療者がジレンマと感じるかどうかにかかわらず、患者さんにはそれぞれ人権があるという認識が薄いのではないか」

「…真に患者さんの側に立った時に見えるのは人権なんですよね。「看護師のジレンマ」という切り口や論点を変えないといけないと思っています。

 患者さんには、COVID―19の中でもがんの治療を受ける権利もあれば、感染が怖いからがんの治療を休む権利もあると思うのです。それを「受けられる治療があるのに、受けてくれないのはジレンマだわ」と捉えてしまうのは、看護という立ち位置による思い入れに過ぎないようにも思うのです」(p. 107)

 

山岸暁美「リスク共生・リスク選択時代の意思決定支援―新型コロナウイルス感染症がもたらした変化と地域からの懸念」(p.118-11)

・面会制限によって、人生の最終段階において、家族と共に過ごしたいと望んでの退院・地域療養意向が増えた。がん患者の在宅療養移行が多くなったとも聞く。

・これまでの「大病院なら安心」が揺らいで、感染リスクや面会できないリスクを伴うことになった。「リスク共生・リスク選択の時代」だ。

「個別の患者・利用者には、どこまでが「起こっても仕方ない」と思える範囲なのか、また、どこでどのような生き方を望むのかの丁寧な共同意思決定やACPが求められている」(109)

・しかし、実際にはCOVID-19では、人工呼吸器とECMO装着についてADをとることのみが重視されており、「コロナ禍においては、もしもの時のために不十分な状況設定と情が中で患者が発した意向が、患者にとっての最善の利益となる診療/ケア方針を選択するための根拠ではなく、限られた医療資源の使用をなるべく控えるための体のいい言い訳として利用される恐れがある」(p. 110)

「意思決定支援をして、またACPを積み重ねて終わりでは決してない。このプロセスは継続しつつも、その意向や思いをかなえるための医療やケアの提供とセットで考えるべきだ」

「医療やケアの専門職のかかわりによって、選択の幅は広くもなれば狭くもなることを我々はもっと認識しなくてはならない。……患者・家族に提示する選択肢を増やすことにも合わせて取り組んでこそ、新尾西決定支援であることを再認識する必要がある」(p. 110)

 

参考:https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/bito/202011/567813.html

 

藤田愛「「会えない」状況を踏まえた本人・家族への意思決定支援の変化 病院看護師と訪問看護師への調査を通じた面会制限による影響の考察」

・①勤務先の訪問看護・リハビリセンターの訪問看護師11名への質問紙調査で、「人生に関わる意思決定支援」への影響の有無と具体的場面の概観。②病院看護師との座談会

「会えない」影響として、

  • 家族にも会えない、同室者とも話せない、ベッドで過ごすことが多くなり、せん妄、廃用性症候群、感染症。それらにより施設入所が困難となるなど転院先の選択が狭まる。
  • 家族が医師から説明を受けていても、本人と会っていないので、本人の状態を完全に把握することができず、退院後にショックを受けたり、落胆する。「なんでこんな状態に」とトラブルになることも。
  • 家族とのつながりを作りたいスタッフと感染リスクを案じる管理職の溝。認識の差。病棟看護師がリモート面会導入の声を上げ、師長から上層部に打診すると「情報管理について考えてない」と非難された事例。「患者が不利益な状態に置かれていることへの看護師の苦悩と、組織としての情報管理との間で、価値の対立が起きている」(p. 114)
  • 面会できないまま過ごさざるを得ない患者と家族。思慕に、面会制限に対する病院への不満、患者の変化に気づけなかった自責の念。
  • 入院したら家族と会えないことを前提に治療を選択するので、予定していた入院や施設入所をためらうケースが増加。受診や入院を迷っているうちに症状が悪化する人も。緩和ケア病棟入院をやめて、在宅看取りを選択する人が増えている。
  • 離れて暮らす親族の支援が受けられない中で、介護を抱えている家族も
  • 終末期の患者さんに限って短時間一人ずつの面会は許可している病院。
  • 管理職が主治医と話をして面会許可を出せるか検討している病院も。
  • 「C-19が長期間収束しないことによりスタッフにも影響が出てきている。もともとは、家族が来れば一緒に処置やケアを行っていたが、最近はスタッフ自身のペースで動くことが増えたように感じ、懸念している」(p. 115)
  • 退院前カンファレンス、退院調整会議が激減し、退院調整が不十分なままの退院による再入院の事例や、在宅療養を支える多職種の準備が間に合わないケースも。岩本大希(ウィル訪問看護ステーション江戸川)「それらは患者・利用者の不利益に少なからずつながっていると現場にいる私たちは思う」(p. 133)
  • 「家族も本人もわけがわからない中で病院医療者が敷いたレールの上で医療が進んでいく可能性もある」(p. 115)
  • 認知症の人でせん妄が悪化。認知症も重度化。
  • 小児科での付き添い家族(多くは母親)が、交代も外出もできないで疲弊。子どもも機嫌が悪い。
  • 発達障害の患者は自傷行為が増えた。
  • 家族に会えないことで闘病の気力を失い、透析を拒否して亡くなった事例も。
  • 第1波で面会禁止にしたところ弊害事象が続いたので、看護部でヒアリングした結果をもって病院長と交渉、一定の条件を付けて15分の面会が可能に。ただ、条件から外れた患者からクレームが出ることも。
  • COVID病床もなく自治体内の感染も少ないので、5分以内であれば回数の制限なく面会が可能。主治医の判断により5分の制限なく許可されるケースも。
  • こうした状況に看護師も不全感や無力感を感じつつけて、看護師の健康への影響も。
  • 「特に、「家に帰りたい」と望む人生哀愁段階の方については、長期には無理でも一度だけでも家に帰れることを目標に、挑戦していただきたいと願う」(p.118)

 

実践報告8本

聖マリアンナ医科大学

対面面会後にDNARに同意した家族。20歳男性。急性骨髄性白血病に化学療法を行い、家族からの骨髄移植が予定されていたが、治療途中に敗血症性ショックでICU管理に。その後、改善し、移植は行われたが、2週間後に多臓器不全で終末期となる。本人はICU入試s辻に「あらゆる治療を行っても回復を希望する」と意思表明し、意思表示ができなくなったら家族に代理決定をゆだねることに同意。

詳細な病状の説明だけでは、これ以上の治療が無益であることが家族に伝わり切れず、「できることをしたい」「そばにいたい」という強い思いがありながら、かなわない苦しさを訴えた。医療職側にもそれができないやりきれなさがあった。医師や看護師の管理者同士で話し合いが繰り返され、家族の体調が万全であり三密を回避することを条件に、感染防護具を装着したうえで対面での面会を可能にした。

本人の状態をつぶさに見、言葉をかけて、面会後、蘇生は望まない、と。「対面して、頑張ってきた姿を直接感じることができた。いろいろな治療や機械につながれても厳しいということ状況に限界も感じた。容姿も変わり本人らしさをこれ以上失ってほしくない」。家族が見守る中、永眠。「最後はみんなで過ごせてよかった。頑張った本人を誇りに思っています」と父。(p. 121)

谷田由紀子(関西医科大学総合医療センター看護部長)

「看取りが近い段階となった場合、医師と病棟管理者で話し合い、面会者の人数・時間・体調を確認し個室内で面会を許可している。しかし、今回のように急な看取りになると「会いたい」という家族の思いは支えられない。また、重要な意思決定の場面においても、面会ができないことで患者と家族の間で思うように会話ができず、本心を語り合えていないように感じる。

 そのため、患者の病状把握を行い、面会が必要なタイミングを適切にとらえる必要がある。その上で、面会が必要な患者に対しては、感染予防琢策を万全にした上で、面会制限を部分的に解除することが必要である」(p. 128)