児玉和夫 基調講演「新型コロナ感染下における重症心身障害施設」 日本重症心身障害学会誌第47巻1号 13~17(2022)

公益社団法人日本重症心身障害福祉協会(構成員は104の法人及び団体。2021年4月1日時点で施設数135、病棟数323、入所定員の総数は13,831人)によるアンケート調査。

 

2020年4月から2021年10月までの間に4回のアンケートとワクチンの接種状況について1回の緊急アンケートを実施。

 

この講演での報告は2021年10月に実施したアンケートの結果が中心。回答施設数104。

 

全国の施設で職員と入所児(者)へのワクチン2回接種が完了しているが、8月にピークを迎えた第5波の感染がまだ残っている時期だった。

 

1.感染事例調査と各施設での対応

 

2020年8月以降全国の施設で散発的な感染が職員にも入所児(者)にも見られていた。1から6名の感染がかなりの施設から報告されているが、全数は不明。

 

2020年12月から2021年1月にかけての第3波において、全国の3つの施設で大規模クラスター感染があった。

北海道のA施設では病棟数6、全入所児(者)数335名のうち3つの病棟で入所利用者系105名、職員は71名が感染。資材の補給、感染防止をしながらの利用者ケア、職員の充当など緊急非常時対応が求められた。感染対策本部は厚労省クラスター班からの医師やICNなどDMAT・JMAT・AMDAの医師やロジスティック、保健所と施設側担当者で構成され、自衛隊看護師を含め地域内外の多くのスタッフも応援に入っている。終息宣言は2月2日であった。

 

「中等症5名以外はほとんどが軽微であり、治療は自施設内で行っている。治療経過中の死亡例はいなかったが、終息後に突然死症候群が2名いたという(詳細不明)。」

 

B施設。全入所児(者)91名中87人が感染。

C施設。全入所児(者)160名中107人が感染。一人が死亡。

 

2.地域支援事業の制限、継続について

 

短期入所

・通常通り実施 26施設

・人数を絞って実施 26施設

・止むを得ないケースのみ 16施設

・受け入れ停止 22施設

・その他 22施設

 

受け入れるための工夫として、直前のID NOW検査で陰性確認という施設が多かった。抗原定量検査の施設、簡易検査の実施としている施設も。ただし簡易定性検査は結果の信頼性が高くないという欠点あり。 

 

受け入れ方法

「個室で対応し、入浴は最後にする。入所者との接触はなしにする」

「病棟居室内での利用はなしにし、短期入所ユニットで実施」

「病棟以外の住宅部の居室で受け入れ、在宅部職員で対応する」など。

 

「ワクチン2回接種を条件に入れるかどうかは議論があった」

 

通所事業

・通常通り実施 45施設

・条件付きで実施 33施設

・縮小している 9施設

・停止している 1施設

・その他 9施設

 

条件としては、一般的な健康チェックのほかに、感染地域からの訪問や行き来を避ける、同居者が感染者化濃厚接触者の場合は中止、他の事業所との併用禁止など。工夫として、送迎バス乗員人数の制限や利用人数の制限、自家送迎をお願い。

 

家庭や地域からの感染関連ケースの受け入れ

 

家族が感染あるいは濃厚接触者となり、在宅重症児(者)を看られなくなった時に受け入れ可能か、という問いを行った。

 

できないとしたのが82施設

条件によっては可能という施設も17施設。

(多くは、PCR検査で陰性が確認された場合、その施設の利用者であれば考慮)

 

兵庫県では民間の施設間での協定を結び、神戸のにこにこハウス医療福祉センターに専門病棟を建設し、そこで在宅重症児(者)を受けることにしている。他の施設でも専用病室を用意できるところで受け入れるか、他施設に職員を応援派遣するなどの協力を行う。このシステムの病棟建設には国も出費し、職員の応援派遣に伴う出費は神戸市が補助することになっている」

 

家族との面会、外泊、外出

 

1)入所児(者)に対する家族との面会について

・制限なしに可能としたのはゼロ

・一定の制限を付けたのが 74

・原則停止が 16

・ICTなど他の方法で実施が 51

 

条件や工夫の代表的なものとしては

・オンライン面会や窓越し面会、2回ワクチン接種後2週間以上経過の家族は対面面会10分以内

・直接面会中止、窓越しでの面会の実施、週に1度LINEでのテレビ電話面会

・急変時やターミナル期のみ面会可、月に1回リモート面会(Zoom使用)

・LINE面会、来院して別室でタブレット面会、面会室でフェースシールドをして対面面会を段階的に実施(月2回)

・病棟ドアを開けて、距離を2m以上とって面会(週に2回以内 1回に1組 30分以内)

・グーグルデュオというアプリでのビデオ通話を週1回、1回5分間で

・面会者がワクチン2回接種者で、アクリル板を通して実施

 

外泊、外出

外泊

・制限なしで可能としたのは 0

・一定の条件で可能 10

・原則中止 93

 

・終末期にある方については特別な措置として実施することもある。

・他科受診等、やむを得ない場合のみ

・自宅のみで過ごし、同居者以外との接触禁止

・本人及び滞在先の家族がワクチン接種を終えている。滞在先から外出しない。

 

外出も92施設で原則中止。

 

活動も「多人数が参加する活動や、外に出かける活動はほとんどが中止」。

新たな工夫として、「活動の単位をできるだけ小さくし、個別性を高めているところが多かった」

 

入所者のマイナスの変化

・運動機能、摂食・嚥下機能、認知機能の低下、異常行動の出現

・家族との面会が限られ寂しい旨を訴える利用者が散見される。ー特別に面会許可で対応。

・生活が単調になる、活動量の低下がある、筋力が低下した。

・イライラ、活気なし、情緒不安定者が増加、表情の乏しさやストレスによる激情化

・外出できない事でのストレスによる自傷行為(髪を抜いて食べる)

・言語理解が少しでもある方は、寂しさやストレスをため込み、泣いたり、自傷行為や大声を出すなどの表現を表出することが増えた方もいる。

・生活場所の制限があり、気持ちの切り替えなどが難しい人は対応が難しかった。

・活動量の低下(面会時の散歩など)、表情が乏しくなった(ガラス越し面会時差が歴然)

・ストレスからくるものかと思われる円形脱毛

車いす乗車ができないと、身体の拘縮・便秘者の増加が顕著に表れた利用者もいる

・運動量の減少により体重増加。家族に対応する反応が薄くなった。白髪が増えた。

・活気、反応が落ちたと感じる人がいる。ベッド離床減で背中や後頭部の皮膚トラブルが増えた

 

5)入所児(者)の変化についてープラスの変化

「家族との面会が少なくなり却って落ち着きが出てきた例、自閉気味の利用者の自傷行為が減った、家族以外ともコミュニケーションが取れるようになったという報告もあった。何よりスタッフとの関係が深まり、個別の支援ができだしたことで今までの全体療育活動では見られなかった表現の変化が出てきたという事例が少なくなかった。リハビリテーションも病棟に専属的に入り、個別に行うことで他のスタッフとも課題が共有でき効果が上がったという。他にも外出などが減少し、発熱がない、体調が安定したという報告は多い」

 

「Ⅲ.最後に」から抜粋

「支援の関係をより密に、個別性を高めたものにしていくということは、今まで行ってこなければならなかった事であり、今回の教訓を生かした明日の療育につなげていく貴重な体験と思いたい」