……水面下で起きているニーズへの支援がなされていないことから、家庭内の問題が膨れ上がり、爆発して表面化することが続いている。
(p.106)
Ⅱ.子どもとかかわる現場から
9.虐待・貧困と援助希求――支援を求めない子どもと家庭にどうアプローチするか(p.102-110)
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小島(注)は、引きこもりの家族への支援について「(家族が)長期間にわたって当事者へ使ってきた時間・精神的な苦痛・社会との関係性の苦しさを支援者が承認をする」「子どもの人生の中で生きてきた自分の親人生を卒業することを自分自身で許すことを自身が承認するという支援」をし、家族自身の精神的な自立を支えるという働きかけの重要性を述べている。
(p.132)
注:小島貴子「ひきこもり当事者への就労支援」内閣府子ども若者・子育て施策総合推進室『ひきこもり支援者読本』42-54頁、2011年
Ⅲ.医療の現場から
11.未受診の統合失調症当事者にどうアプローチするか――訪問看護による支援関係の構築
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こうして考えていくと、人が「『助けて』が言えない」背景にはさまざまな理由が想定される。助けを求めれば助けてもらえるということを知らないこと。助けを求めるやり方が分からないこと。過去に「助けて」と言ったが、結果として助かるどころか尊厳をはく奪されてしまう経験をしたことがあること。それよりは自分だけの力で生きていきたいと思っていること。人に助けてもらうことに罪悪感を抱えていること。自分には助けてもらう価値などないと思っていること。すでに大切な誰かと助け合っており、その暮らしが行き詰っていることには気づきながらも、親密な関係性の中で助け合っているがゆえにその関係を壊すような第三者には助けを求めづらい状態になっていること。「『助けて』が言えない」理由は多様であり、それぞれの人が「助けて」と言えなくなるまでには固有の歴史と物語がある。
(p. 198-9)
……「『助けて』が言えない」ことは、その人の弱みではなく、「『助けて』が言えない」「言ったらさらに尊厳を奪われる」状況を創り出していく社会の仕組みの側にこそ課題があるのではないだろうか。
(p. 200)
Ⅳ.福祉・心理臨床の現場から
17.どうして住まいの支援からはじめる必要があるのか――ホームレス・ハウジングファースト・援助希求の多様性・繋がりをめぐる支援論
熊倉陽介(東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野/精神医学)
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熊谷……「依存先を増やす」というメッセージは当事者に向けたものではなく、社会全体に向けて発信したメッセージだということです。「依存先を増やす」というメッセージが当事者に向けたものであると誤解されると、弱さをオープンにして「助けて」と言う義務が個人の側にあるといった新しい自己責任論になってしまいます。これは、本人を「助けて」と言える人間に改造する、私が否定してきた当事者に変化を強いる医学モデルであり、社会モデルとは相反するものです。
(p. 235)
岩室……実は「助けて」と言えないうちに助けてもらっている関係ができあがっていることが重要ではないか……
(p. 239)
岩室……
「助けて」と言うのは、とても勇気のいることです。「助けて」という言葉は、相手に全権を委ねる、相手にアドバイスを強いる、もしかすると、「助けて」と言うことによって辱めを受ける危険さえある。非常に障壁の高い言葉でもあります。
(p. 253)
座談会「依存」のススメ――援助希求を超えて
岩室紳也×熊谷晋一朗×松本俊彦