奥野修二『死者の告白 30人に憑依された女性の記録』(講談社)

 儀式が終わって憑依が解けたとき、彼女の中から本当に例は消えたのだろうか。意外にも金田住職はこんなふうに言った。

「霊の存在云々はどうでもいい話なんです。あるといえばあるし、ないといえばない。証明できるものではありません。あくまでその人の中での出来事なんです。だからとりあえず全部肯定します。その上で、それがその人にとってどういう意味を持つか。ここに来るまでの彼女は死にたいという意思表示をしていました。これは駄目です。絶対に死なせたくない、というのがあの儀式だったのです」

(p。73)

 

……私事で恐縮だが、ずいぶん前に母が危篤だというので、最期を看取ろうと新幹線で実家に向かった。車窓から流れる風景をぼんやり見ていると、突然、母が僕の頭の中に語りかけてきたのだ。何が起こったのだろうと周囲を見渡したが、もちろん母はいない。しばらくすると、母が大好きだった島倉千代子の「この世の花」が聞こえてきた。驚くよりも、涙が流れてきて止まらなかった。いわゆる「お知らせ」というものだろう。そんな体験をしていたので、高村さんの言うことが幻覚や幻聴のようには思えなかった。

(p. 226-7)

 

(spitzibara注:)金田住職の言葉

……真実か真実でないかではなく、困っているなら解決方法をさがしましょう。塩おにぎりを欲しいと言うなら、塩おにぎりをつくって与えましょう、ということなんです。それって証拠のある話ではありませんね。でも、良くなったら、それでいいんです。方法はどうあれ、彼女を普通の生活に戻すことが私の役目なんですから」

(p. 233)