Travis Dumsday "ASSISTED SUICIDE IN CANADA Moral, legal, and Policy Cinsderations" Introduction

https://www.amazon.co.jp/Assisted-Suicide-Canada-Policy-Considerations/dp/0774866012

 

著者がConcordia University of Edmontonの神学と哲学のCanada Research Chairだった間に書かれたもの。

 

2016年のカナダのMAID合法化につながった2015年2月の、Carter v Canada判決について、その経緯や背景、その後の展開等の事実関係を正確に押さえたうえで、道徳、法、政策の側面から徹底的に論じるという趣旨。

 

著者の立場は、カナダ最高裁はCarter v Canada判決において、法的にも道徳的にも過ちを犯したのであり、自殺幇助と積極的安楽死は道徳的に許されない行為として非合法に戻すべきである、というもの。

 

Perhaps many (most?) readers will deisagree with that assessment. Ideally, I would like to change some minds on this accout; however, I will also be content with the more modest aim of supplying readers with a clear idea of why some people remain opposed to these practices in the wake of  their ligalization and in the face of widespread public support for that legalizadion.

(p. 6)

 

著者自身は、自殺をgravely  immoralとするEastern Orthodox Churchのメンバではあるが、本書のテーマを考える上では、特定の宗教の教義にとらわれることなく、宗教的背景をもたないsecular学者とも、また広範な宗教的背景をもった同僚とも生産的な対話を望んでいる。

 

著者はMAIDという文言について批判的。ただし、一般的な批判としてよく言われる、核心を濁す婉曲表現である、曖昧である、の2点のうち、前者は「良い死」を意味するeuthanasiaでも同じだとし、後者の曖昧さのみを問題とする。その批判の視点は、spitzibaraが書いてきたのと同じ。(興味深い事実として、MAIDという文言は2007年Youngなどによっても既に使われており、判決前からメディアは使用していた)

 

What exactly do they mean, and how do they relate to the use in Canad of the relatively new term "medical assistance in dying"(MAID)?

(p.7)

 

I do remain woried about the potential ambiguity of MAID insofar as someone might confuse it, for instance, with standard palliative care, which, in a sense, is also a form of "medical assistance in dying."

(p. 9)

 

この7頁と9ページの記述の間に展開される、著者の自殺幇助と安楽死の詳細な分類は興味深い。

 

assisted suicide:単純にそのまんま。誰かが自殺するのに手を貸すこと。それを医師が行った場合にはphysician assisted suicide. ただし、最後の行為は患者本人。

 

voluntary passive euthanasia:本人意思による消極的安楽死。患者自身の意思に基づいて、治療が中止されて、そのために自然の原因により患者が死ぬこと。たとえば患者の事前指示があって、医師が人工呼吸器等を取り外すなど。

 

non-voluntary passive euthanasia: 本人の意思に基づかない消極的安楽死。意思を確認できない状態にあって事前指示もない患者から、医師の判断で治療を中止し、死なせること。

 

involuntary passive euthanasia: 本人の意思に反する消極的安楽死。生命維持によって生かしてほしいと明確な患者の事前指示がありながら、医師がそれに反して生命維持を中止するような場合。

 

同様に、active euthanasiaも、voluntary(VAE), non-voluntary(NVAE), involuntary(IVAE)と分類される。

 

従って、16年にカナダが合法化したのは、assiseted suicide とvoluntary active euthanasia。本書では、この表記を中心とする。

 

ただし、本のタイトルは、カナダ内外の、この問題についてさほど詳しくない人たちにも手に取ってもらえるよう、分かりやすくシンプルに自殺幇助とした。

 

P.9に、当該判決の論点ではないので本書の議論の範疇を超えるとしているし、そうした文言は出てこないけれど、無益な治療論に触れている箇所があり、

NVPE(本人の意思に基づかない消極的安楽死=つまりspitzibara的に解説すれば「無益な治療」論による治療中止)は法的にも道徳的にも論議を呼ぶものだと書いている。

 

また、IVPE(本人の意思に反する消極的安楽死=つまりspitzibara的に解説すれば、係争となっても「無益な治療」論で一方的に治療が中止される場合)はカナダでは違法だと書かれているけれど、その箇所に「事前指示書が尊重されるのは、極端なあるいは特殊な状況以外でのことと、一般的には理解されている」との括弧書きが追記されている。これを前提にすれば、担当医師が「患者の事前指示は極端な要求であり、医師の判断としては治療は無益」と判断すれば、治療を中止しても合法ということになる。

 

また、それに続く箇所で、積極的安楽死のうち、NVAEとIVAEは今なおカナダでは違法行為だとしながら、以下のように書かれている。

 

As we shall see, NVAE has a number of prominent advocates in the ethics literature, whereas IVAE has not. (In some cases, though, advocates of NVAE seem to drift toward IVAE.)

 

もっとも、この点についても、当該判決の論点ではなく、本書の射程を超えているので触れないのだそうな。私はここのprominent advocatesの言っていること、とりわけカッコ内については、もうちょっと詳述してほしいけど。