ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』

 6. プールサイドのあちら側とこちら側

 

 プールサイドのこちら側では、水着姿の中学生たちが肩をこすり合うようにして身体をすぼめて立っていた。人間がすずなりになっている様子を、英語で「缶詰のイワシのような」と表現するが、まさにその絵を思い浮かべてしまうような光景だ。

 他方、プールサイドの向こう側はスペースが有り余っているので、腰を回しながら準備体操をしている生徒や、優雅に脚を延ばして座り、談笑している生徒たちもいた。缶詰のイワシになっているこちら側が庶民サイドなら、向こう側はバケーションを楽しむエスタブリッシュメントという感じだ。それがけっして比喩ではなく、本当に庶民とエスタブリッシュメントの子どもに分離されているのだからアイロニックな笑いの一つも浮かべたくなる。

(p.89-90)

 

 7.  ユニフォーム・ブギ

 

 元底辺中学校の古参教員であるミセス・パープルは、現在の校長の方針に不満を持っているようだった。教育や課外活動のために補助金を使うのではなく、むしろ貧しい子供たちやその家庭を危機から救い、助けるために予算を使うべきだと彼女は考えているのだった。

 だが、教育機関が市の福祉課の仕事を兼任しなくてはならない状況はおかしい。「小さな政府」という言葉を政治について議論する人々はよく使う。が、現実問題として政府があまりに小さくなると、「恵まれない人に同情するならあなたがお金を出しなさい。そうしないのなら見捨てて、そのことに対する罪悪感とともに生きていきなさい」みたいな、福祉までもが自己責任で各自それぞれやりなさいという状況になるのだ。

(p.106)