渋谷智子『ヤングケアラー ――介護を担う子ども・若者の現実』(中公新書)

 ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいるために、家事や家族の世話などを行っている、18歳未満の子どものことである。

(p. ⅰ)

 

総務省2013年「平成二四年就業構造基本調査」

 15~29歳の介護者数として、177600人。

 同年の介護者557万3800人のうち、8割近くが50代以上。

(p. ⅲ)

 

 こうした18歳未満のヤングケアラーに関しては、まずは成長期の子どもであることを考慮し、その健やかな成長と教育の機会をしっかりと保証したうえで、介護者としての部分をサポートすることがポイントとなってくるだろう。一口に「ケアラーを支援する」と言っても、人生のどの段階でケアを担うかによって、考慮すべき点や支援方法は変わってくるのである。

(p. ⅴ)

 

 ヤングケアラーに関して、この本では18歳未満を「子ども」、18歳以上、30代くらいまでを「若者」とする。

 

 英国:「2014年子どもと家族に関する法律」第96条「ヤングケアラー」

 地方自治体は地域のヤングケアラーのニーズに関するアセスメントを行うことが義務付けられた。(p. 15)

 

 日本ケアラー連盟が「ケアラー」名称を使うこと: それによって、「これまで「高齢者」や「障がい児」のように介護を受ける人の属性ごとに縦割りに分断されていた状況を超えて、横につながろうとする方向性を持っている。日本ケアラー連盟が掲げるのは、ケアを必要とする人もケアをする人もともに尊重される社会である。

(p. 17-8)

 

・・・…「ヤングケアラー」という言葉は、「老々介護」「男性介護」に続く、新たな介護の局面を示す言葉としてメディアに注目されたのである。

(p. 19)

 

YCプロジェクト・チームの定義: 家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18歳未満の子ども」

(p. 24)

 

新潟県魚沼市の調査 2015年1~2月 公立小・中学校、総合支援学校26校の教職員446人対象。271人が回答(回答率60.8%)、そのうち68人が、これまでに教員としてかかわった児童生徒の中で家族のケアをしているのではないかと感じた子どもがいる、と答えた。

 

神奈川県藤沢市の調査 2016年7月 私立小中学校の教員 1098人が回答(回答率60.6%) そのうち534人が、これまでに……と答えた。

 

「ヤングケアラー」という視点を持つことにより、学校では「家族の中で子どもがどのような役割や責任を担ているのか」といった点からも子どもを見るようになり、対応の仕方が変わってきたことが報告された。

(p. 65)

 

 現状として、子どもがヤングケアラーとして自分の体験を話すと、それは、親につらい思いをさせることにつながっている。……

 なぜ、重いケアを担う子どもや若者を知った時の反応として、まわりの大人が十分にケアを担っていないのではないか、と思われがちなのだろうか。なぜ、子供を年齢相応の子どもらしくさせてあげられない責任が、周りの大人にこれほど帰されるのだろうか。この構造については、しっかり考えてみる必要がある。そうしないと、ヤングケアラーは、ますますケアの経験を語れなくなってしまうからである。自分が話したことで家族が傷つくのであれば、そうまでして話そうとは思わない。それは、多くのヤングケアラーが抱いている率直な思いである。

(p. 90)

 

 (主たる介護者の経験がない人には、理解しにくい面があるため)良かれと思って「アドバイス」してしまうのでは、と渋谷先生は推測。

 

16歳から20歳まで、足や心臓に疾患のある祖母のケアを担ったBさんの体験。(p.93~)

 高校1年の夏、祖父、父、Bさん自身がほぼ同時期に倒れる。祖父は農構想で半身不随になり、施設に。父はヘルニアのような病気。Bさんは夏バテで入院。祖父がいなければ、祖父は一人では暮らせない。 → 一人暮らしをしていた兄が自宅に戻って5人暮らしに。父は動きにくく、帰宅も遅い。とも働きの母は祖父の施設へ。祖母の世話は「家のことは女がするもの」としてBさん。

 

渋谷先生が入木素の支援現場を視察して、必要だと思う方向性

  • ヤングケアラーがケアについて安心して話せる相手と場所
  • 過程でヤングケアラーの担う作業や責任を減らしていくこと
  • ヤングケアラーについての社会の意識を高めていくこと

(p. 132)

 

英国のYCのカフェで設けられていたガイドライン

・ここで話されたことは、ここだけの話にしておくこと

・秘密を守ること。ただし、あなたや他の人の安全が心配される時には、あなたが安全でいられるよう、その情報を他の人に伝えなくてはいけないことがあります。

・自分や人のことを卑下しないこと。

・発言しないでパスすることもできます。

(p. 137)

 

英国のヤングケアラー・アセスメント・シート

  1. 150, 152, 154

 

 英国の全国ヤングケアラー連合の会長の言葉

 私が福祉専門職に対してよく問うのは、「もし、ケアを要するその人が一人暮らしだったらどうするの?」という質問。もし一人暮らしだったら、ありとあらゆるサービスをつぎ込むはず。子どもがいるというそれだけの理由で、未成年の子どもを「ケア・パッケージ」の中に入れて考えるのはおかしい。もちろん、子どもは親を愛することができるし、買い物に行ったり、部屋を掃除したりできる。けれど、入浴介助や排泄介助は子どもを当てにすることではない。(p. 157)

 

「家族」を「インフォーマルな資源」としてひとくくりにとらえがちな行政のシステムに対して、ケアを担う「家族」には、健やかな成長と教育の機会を保障されるべき子どもが含まれていること、行政はそうした子どもを「子どもの権利」という観点からも守らなければならないことが強調されている。

(p. 158)

 

 多くの場合、家族へのサポートは、福祉や教育や医療などを専門とする複数の機関の関与を意味する。ここでは、複数の支援機関の間がきちんと調整され、ヤングケアラーがリスクにさらされないよう、コミュニケーションがしっかりなされていくことが重要になる。こうした家族の状況がある程度整理されないと、いくら子どもや若者を取り出して、クラブやアクティビティやグループ・セッションでその気持ちの負担の軽減を図ったとしても、また問題が出てきてしまう。

(p. 160)

 

 学校での支援が欠かせない点について。

……多くのヤングケアラーにとって、学校は、家庭以外で一日の大部分を過ごす場になっているからである。ただでさえ不安の重い日本の小中学校の先生の仕事をこれ以上増やすのか、という懸念もあるかもしれないが、これは必ずしも先生がするというのではなく、子どもが日々通う「学校」という場所と時間を利用して、そこで、地域の人や専門家が入って、ヤングケアラーに関する知識を広めたりその支援をしたりしていくというイメージである。

(p. 166-7)

 

英国のYCが学校に望むこと トップ10  (P. 174)