読売新聞社会部『孤絶 家族内事件』メモ 

読売新聞社会部『孤絶 家族内事件』(中央公論新社 2019)

 

 子どもの障害や病気に悩んだ親が、子どもを手にかけてしまう殺人・心中事件は相次いでいる。

 読売新聞が2010年1月から2017年3月までに起きた計50件(未遂含む)を調査・分析したところ、加害者は65歳以上が7割を占め、子どもの「ひきこもり」や暴力にもかかわらず、長く周囲から支援を受けられなかった高齢の親が事件を起こしている傾向がわかった。

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 50件の動機や背景(重複あり)を分析したところ、「親が亡くなった後などの子供の将来を悲観」が約6割の28件に上った。「子どもからの暴力」も20件と目立った。ほかに「経済的な不安」(9件)、「介護疲れなどによる親のうつ状態」(6件)などもあり、福祉・医療面の支援不足が事件につながった可能性がある。

 親が介護や世話をした機関が確認できた44件のうち、20年以上が22件を占めた。加害者となった親(53人)の事件当時の年齢は平均69歳。65歳以上の高齢者が37人と7割を占めた。加害者となった子ども(51人)は平均39歳だった。

 事件が起きる背景には、障害などのある子どもと同居する親の過重な負担があると専門家は指摘している。親の高齢化が進む中、社会全体で負担軽減を図ることが求められている。(p. 85)

 

大畠信雄さん(76) 精神障害者の家族の支援 和歌山 p. 94-99

 

「孫の世話、妻に任せきりにした後悔」(p.151-153)

2016年に1年6月の実刑判決で確定。中国地方。

娘の出産は16年4月。すでに1年半前から2歳の姉を預かっていたが、男性が「20歳を過ぎたばかりの娘が2人の子どもの面倒を見るのは大変だろう」と考えて妻に相談。妻が孫2人を同時に世話することに。

 

……妻を信頼しきっていた男性には、孫娘の世話も「決して難しいことではない」と思えた。(p. 151)

 

 が、10日後、朝食中に妻が孫娘の頭を平手でたたくのを目撃。注意したが、その後も夕食時に怒鳴り声を上げるなど、苛立つ様子が増えた。5月上旬、娘にお母さんは限界、一人でも連れて帰ってほしいと連絡したが、妻自身が長女に連絡し、「大丈夫だから、私が面倒みるから」と制した。

 

事件は、妻の様子が元に戻って安心していた5月半ば。男性の外出中に、げんこつや平手で数回たたき、体を持ち上げて上下左右に激しく揺さぶった。翌朝、体が硬直している孫娘を見て、男性が長女と一緒に病院へ。虐待を疑った医師が警察に連絡、傷害容疑で逮捕。

 

……法廷で「泣きやまず、懐かないのでイライラした」と語るのを聞き、男性は初めて妻の気持ちを知った。(p. 152)

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「妻に甘え、任せきりにしすぎた。当時は児童相談所に連絡しようという頭がまったくなかった。おかしいと思った時、すぐに誰かに相談するべきだったのに」(p. 153)

 

 

 性的虐待被害者の心のケアを行っている西澤哲・山梨県立大教授(臨床心理学)は、「親らによる性的虐待の目的は、性的欲求を満たすことと考えられがちだが、実際は相手を支配したいという欲求が動機になっていることが多い」と分析する。(p. 156)

 

英国の介護者支援の章

「介護者の権利」を法律に――イギリス (p. 216-220)